ベンチャー社長・2代目社長向け財務戦略会計士の藤井です。

順調に利益が出てくると、次に経営者の頭を悩ませるのは税金です。

日本では諸外国と比べて税金負担が重いです。
ご存じの通り、所得税は住民税と合わせて最高で55%となりますし、法人税も中小企業だと約33%ほど取られることになります。

そのため、経営者が税金の知識をもち、税金をコントロールする方法を知ることは必須と言えるでしょう。

しかしながら、経営者の中にはこの「節税」の意味や方法論を正しく理解していない方もいらっしゃいます。

そこで、本日は「節税」とは何か、「節税」すべきかどうかなど、節税にまつわる疑問について思うところを書いていきます。

節税と課税の繰り延べの違いが分からない
節税をすべきかどうか迷っている
どのくらい節税をすべきか基準がない

本日はこのような疑問にお答えしていきます。

いわゆる節税には2種類ある

いわゆる「節税」という言葉には2種類の意味があるということをご存じでしょうか。

1)税金が下がる施策
2)課税を繰り延べできる施策

この2つになります。

1)に関してはいわゆる「節税」という言葉がそのまま当てはまる施策のことで、有名どころとしては「出張日当」や「役員社宅」などがあります。

出張日当の場合は所得税が非課税+法人税が下がる効果がありますし、役員社宅も賃借料相当額以外は同じような効果が見込めます。

個人所得税と法人税両方に有効という意味で、これらの施策は王道の節税手法と言われているわけですね。

一方で、2)に関してはよく1)と混同される方が多いので注意です。

一例として中小企業の社長の多くが利用されているであろう倒産防止共済(セーフティーネット共済)について考えてみましょう。

利益が出ているときに年間最大240万円まで損金に落とせると評判ですが、これ結局共済を解約したときには収入として益金に算入しなければなりません。

つまり、赤字の時に解約しないと、過去の損金で落としたものがまるまる税金としてかかってくる訳で、本質としては節税というより「課税の繰り延べ」となります。

節税の方策の中には、このように税金の支払う時期をずらす「課税の繰り延べ」的なものも多いので、純粋な節税と呼べないので注意です。

そもそも節税をすべきか?

次の論点として「そもそも節税をすべきか?」という問いは考えておいた方がよいでしょう。

というのも、中小企業には節税原理主義の経営者がたくさんいるんですが、中には節税をしないほうが良いケースもあるんですね。

それはどういうケースか。以下の2つです。
1)銀行融資を増やして事業を拡大したい場合
2)キャッシュフロー経営を実践したい場合

前者に関しては、節税をすると当然ながら営業利益・経常利益が減りますので、銀行からの評価が悪くなります。

銀行は基本的に利益を返済原資として見ているので、そりゃ利益が減れば融資できる金額も下がっていきますよね。

ということで、ガンガン借りてガンガン事業を伸ばしたいのであれば、姑息な節税には手を出さないようにしましょう。

一方、キャッシュフロー経営についても注意が必要です。

というのも、いわゆる節税をすれば利益が減るだけでなく現預金残高も減っていきます。

ここで「節税で流出を回避した現預金以上に現預金がなくなる」という現象が起こるのは留意しておくべきです。

例えば、100の節税を行うとすれば、理論的には33キャッシュアウトが回避できたことになりますよね。

でも裏を返せば、67は余計にキャッシュの流出が起こっているわけです。

この事実に気づかずに、過剰な節税を行って資金繰りに窮する中小企業経営者が後を絶ちません。

「現預金残高があればあるほど経営戦略のオプションも増えて結果として利益をより追求できる」というキャッシュフロー経営の立場からは、過度な節税はむしろ機会損失と言えるでしょう。

どのくらい節税をすべきか?

節税をしようと思ったときに「どのくらい節税をすべきか」は、節税関連で最後の問いとなるでしょう。

中小企業によって最適な解は異なると思いますが、私がおすすめしている考え方は以下の2つになります。

1)営業利益は必ず黒字にもっていく
2)当期純利益は1,000万円台を基準に考える

まず、中小企業経営者の中には税金を1円も払いたくないからといって、当期純利益を必ずマイナスまでもっていく方もいらっしゃいますが、これはやりすぎだと思います。

というのも、前述したとおり銀行からのウケが悪くなって資金調達に支障が及びますし、何より内部留保が貯まらないので、次に向けた投資を行うことが難しくなってしまいます。

成長は度外視してとにかく食っていければよい、というのならば話は別ですが、会社を1でも大きくしたい経営者に過度な節税は禁物です。

また、当期純利益の基準についてですが、課税所得800万円までは税率が低いので何が何でも800万に抑えることをよしとする風潮があると思います。

一方で私の経験上、銀行や他の機関からの目線を考えた場合、当期純利益が1,000万円に乗っているかどうかによって目の色が変わってきます。

中小企業の多くが節税で利益を赤字または数百万円程度に抑えにかかっているからこそ、1,000万円以上の利益を出している企業が相対的に輝いて見えるのです。

そのため、多少800万円から利益がはみだして高い税率が適用されたとしても、その価値はあるなというのが私の印象です。