会計士の藤井です。

前回の記事で、事業承継やM&Aで行うべき財務の磨き上げについてお伝えしました。

財務の磨き上げの中でもひときわ重要度が高いのが保険の見える化と磨き上げです。

中小企業の場合は経営者に生命保険が掛けられていることが多く、その金額も高額になりがちで、財務上のインパクトが大きくなります。

そこで、今回は中小企業の多くが加入している保険の事業承継上の留意事項と対策について解説します。

多数の保険に加入したが、どのような内容か覚えていない
事業承継時の保険がどうなるのか知りたい

今回はこのような疑問にお答えします。

保険の内容を正しく把握していますか?

まずは現在加入している保険の内容を正しく理解するところから始めましょう。

法人が経営者や従業員を被保険者とした保険に加入している場合、基本的には法人向けの生命保険が多いと思います。

法人名義で保険に加入する目的として、今は難しくなっていますが節税を意図したものや将来の役員退職金の積み立てが多いと思います。

しかし、中小企業の中には把握できないくらい多くの保険をかけて、今の保険の状況がどうなっているか誰も分かっていない、というケースが散見されます。

そこで、まずは保険証券など保険に関する資料を整理していきます。その上で「保険契約一覧リスト」を作成すると事業承継やM&Aの時に大変役立ちます。

リストには以下のような情報を集約するとよいでしょう。

  • 保険の種類(死亡保険、定期保険、養老保険)
  • 保険の対象期間(60歳まで、終身)
  • 契約者(基本的に法人)
  • 被保険者(役員、従業員)
  • 受取人(役員や従業員の家族、法人)
  • 月々の保険料支払額
  • 万が一の保険金給付額
  • 解約返戻金の金額

保険に関する会計税務処理は正しいですか?

昨年の生命保険の税務上の取り扱いが改正されたことで、より複雑感が増した法人向け生命保険の処理。

そもそも生命保険に限らず、保険に関する経理処理は全額資産計上、半分資産・半分費用計上、減額費用計上のどれかだったのですが、税制改正によってより経理処理が複雑となっているので難易度が比較的高いのが特徴です。

中小企業の中には、税理士に対して保険の誤った説明をしていることなどの原因で、会計税務処理が間違えているケースもあります。

そのため、契約している保険リストを税理士に開示することで、より適切な経理処理ができることでしょう。

保険の時価評価は早めにやっておく

最後の論点として「保険の時価評価は事業承継やM&Aで重要になってくる」というものがあります。

というのも、会社の株価算定の過程で保険積立金や解約返戻金が考慮されることになるからです。

これらの金額は保険会社に問い合わせてみないと分からないことも多く、すぐに算定できないので、ある程度の時間を織り込んでおく必要があります。

保険と同様に有価証券や差し入れ保証金も時価評価したうえで会社の価値を判断することになりますので、時価評価ができる資産は早めに時価評価額を洗い出しておくことが重要です。