ベンチャー社長・2代目社長向け財務戦略会計士の藤井です。

事業承継には息子や従業員が事業を引き継ぐ「内部承継」と第三者や他の会社が引き継ぐ「外部承継」があります。

このうち、内部承継は身内の個人が引き継ぐことになるので、株式の引継ぎをどうすべきかが往々にして論点になります。

そこで、実務上では株式の評価を下げることで譲渡価格を下げ、後継者が引き継ぎやすくするような手法が取られます。

本日は、内部承継を円滑に行うために中小企業ができることについて、思うところを書いていきます。

株式の買い取り費用が高すぎて手が出せない
株価を下げて円滑に息子に引き継ぎたい

本日はこのような疑問にお答えします。

なぜ内部承継で株価が問題になるのか?

株価を下げるテクニックの前に、なぜ内部承継で株価が問題になるのか整理しておきましょう。

これは会社法の話になるのですが、経営権の承継には株式の承継が必須だからです。

というのも、特殊な種類株式を発行しない限り、重要な会社の意思決定は1株1議決権の投票によって定まるからです。

厳密にいうと、通常の意思決定は取締役(会)が決定するのですが、議決権の過半数を持っていれば取締役を解任できるので、やはり会社を動かすには議決権(経営権)が必須となります。

裏を返せば、株を持っていない後継社長はいつまでたっても雇われ社長の身分から離れられず、株主にずっと従い続けることになってしまいます。

つまりは、後継社長としての役職だけでは不十分で、本当の意味で会社を継ぎたいのであれば、先代経営者から株式を承継するのは必須と言えるのです。

株価の算定ロジックとは?

次に、株価のお話に入っていく前に、中小企業(非上場企業)の株価がどのように算定されるか確認しておきましょう。

1)類似業種比準方式
2)純資産価格方式
3)配当還元価格方式

この3つの方式で株価が算定されることになるのですが、同族企業は基本的に類似業種比準方式か純資産価格方式で算定することになります。

そして、会社の規模に応じて大会社、中会社、小会社と分類がなされ、大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価格方式で評価します。

一方、中会社は少し複雑で、会社の規模に応じて類似業種比準方式と純資産価格方式の割合が変化します。

規模が大きければ類似業種比準方式の割合が多くなり、規模が小さくなれば純資産価格方式の割合が大きくなります。

株価の金額は会社の決算書の状況によってかなり変動するものですが、一般的には純資産価格方式の方が株価が高めに出がちですし、評価額の変動が小さいので対策が難しい傾向にあります。

株価を下げる方法

本題の株価を下げる方法ですが、結論から言うと「利益」を下げるか「純資産」を下げるか「配当」を少なくするの3つしかありません。

こと同族企業の場合は、利益と純資産を引き下げることで株価対策とすることが多いです。

1)利益対策

利益対策はシンプルで、なるべく個人や会社の損にならないように利益を引き下げることが重要です。

①先代経営者に役員退職金を支払う

先代経営者が役員を退任して退職するか、あるいは相談役等として引き続き会社に関与する時には役員退職金を支給することが可能です。

役員退職金は「経営者の最終月額報酬×在職期間×功績倍率(2-3倍)」で計算されますがいくつかの注意点があります。

まず、月額報酬に関してですが、退職直前に報酬を上げた場合は意図的に役員退職金を増やしたものとして否認される可能性があるので、報酬金額は事前に上げておくことをお勧めします。

また、社会保険料の削減を目的として、月額報酬(定期同額給与)を抑えて事前確定届出給与で大半を支払っている会社も散見されます。

ただ、この事前確定届出給与分が役員退職金計算上の月額報酬から除外される可能性もありますので、やはり退職前には定期同額給与で役員報酬を受け取る方式に変更しておいたほうがよいです。

②オペレーティングリースで経費計上

ここでいうオペレーティングリースとは、飛行機や船舶など購入金額が多額になる固定資産に投資して、投資数年で大きな減価償却費を計上することで利益を圧縮する手法です。

とはいっても個人で飛行機を購入することは非常に難しいので、投資家の出資の受け皿としてファンド(匿名組合)を作ることが多いです。

このファンドの損益は投資家にも反映されるのですが、初年度で大きな減価償却費を計上することになるので、それらの損失は投資家側で損金に計上が可能です。

数億円あるいはそれ以上の損金を一度に計上したいのであれば、投資額が多額になる飛行機や船舶のオペレーティングリースが適しています。

一方で、比較的少額(1億円以下)の損金計上を行いたいときは、最近はドローンのオペレーティングリースなども人気です。

利益引き下げ額に応じて、オペレーティングリースの投資対象を変えると良いでしょう。

③含み損を抱えている不動産の売却

会社が所有している不動産は購入時の簿価で載っていると思います。

これらの不動産に含み損が発生しているときは当該不動産を売却することで譲渡損失が計上されるので、利益を圧縮することが可能です。

ただ、子会社や関連会社への不動産の売却は慎重を期した方がよいです。売却損が税務上否認されるケースもあるためです。

2)純資産対策

純資産対策は特に規模が小さくて「純資産価格方式」で評価しなければならない会社に効果を発揮します。

①低解約返戻型保険を活用する

積立型の生命保険金の掛け金は「保険積立金」という勘定科目で貸借対照表に計上される一方で、税法上の評価は解約返戻金の金額によってなされることになります。

ここで、保険の中には返戻率の低いような保険もあり、この低返戻率を利用して株式評価上の(純)資産の金額を大幅に引き下げようというものです。

例えば1億円の生命保険で当初数年の返戻率が30%の場合は株式評価上の資産額は3,000万円であり、7,000万円分の純資産を圧縮することが可能となります。

②債権放棄による貸倒損失の計上

含み損をかかえている不動産の売却と考え方としては同じなのですが、不良債権を貸倒損失として計上することで純資産を圧縮する方法です。

債権の貸倒損失に関しては税務上の通達に沿うことが必要です。

・金銭債権が切り捨てられた場合
・金銭債権の全額が回収不能となった場合
・一定期間取引停止後弁済がない場合等

この3要件のどれかに当てはまれば税務上の貸倒損失として計上が可能です。

③借入による賃貸不動産の購入

純資産はかいつまんで言うと「資産ー負債」なので資産を減らすか負債を減らせば純資産を引き下げることが可能です。

そこで、借入を活用して不動産を購入し、さらに賃貸に回すことで評価額を大幅に下げることが可能です。

というのも、不動産の評価方法ですが、取得してから3年経過すると時価ではなく路線価や固定資産税評価額で評価することになります。

この路線価は時価の80%、固定資産税評価額は時価の概ね70%で評価されることが多く、現預金で持っているよりも純資産が20-30%下がることが期待できるからです。

さらに、当該不動産を賃貸に出すことで土地については貸家建付地としての評価減、建物については貸家としての評価減を取ることができるので、さらに純資産が下がります。

注意点としては、不動産を取得してから3年は時価での評価となるので、計画的に不動産を購入しないと意図したとおりに純資産が下がらないという点が挙げられます。

株価を下げたけど資金が用意できない場合

株価を下げに下げたとしても、依然として株価が高く、買取資金や納税資金を用意できない方もいらっしゃることでしょう。

その場合、資金問題をひとまず解決するためには主に2つの方法があります。

事業承継税制で納税猶予する

まず一つは事業承継税制を使って贈与税または相続税の納税猶予を行うという手法です。

この事業承継税制は前々から存在していましたが、近年改正を経て多少使いやすくなった制度になります。

ただ、毎年の報告が必要であったり、納税猶予の取り消し事由が多数あることなど、当該税制を適用しても毎年目を配らせなければならない点がデメリットと言えるでしょう。

資金を融資してもらう

もう一つは銀行から自社株の買い取り資金を融資してもらう方法もあります。

銀行としても事業承継関連サービスを拡充している中で自社株融資は比較的積極的に検討してくれるものと思われます。

ただ、後継社長が債務を負うことになるので、できれば自社株融資は最終手段に残しておきたいところです。