会計士の藤井です。

これまで事業承継の財務の磨き上げとして様々な資産項目の磨き上げを紹介してきました。

本日の記事では、売掛債権の磨き上げについてこれまでの経験をもとに解説していきたいと思います。

売掛金の中に回収期限を過ぎているものが沢山ある
回収できない売掛金をなんとかしたい

本日はこのような疑問にお答えしていきます。

売掛債権の年齢表を管理できていますか?

先ずもって大事なのが「売掛債権の年齢表を管理できているか」という観点です。

というのも、売掛債権の中にはまだ入金がなされていないものもあるかもしれません。

そこで、売掛債権をまずは一覧にしてみることから始めましょう。

そして、各売掛債権ごとに請求日からどのくらいの年月が経過しているか計算してみるのです。

これを売掛金の年齢表管理と言います。
この売掛金の年齢表を作成することで、未回収の債権がどのくらいあるか明確になるはずです。

これは資金繰りの関連からも非常に重要です。

というのも、通常であれば売掛金(売上)を得るために、仕入や経費がかかっているはずです。

その仕入等を回収して初めてビジネスとして回っていくことになるのですが、売掛金を回収できなければ資金繰り的に厳しくなるには自明です。

また、年齢表を作成しておけば「年齢が多い売掛先から連絡をとって回収」するということもできます。

このように売掛金の年齢表は「資産性の確認」及び「資金繰り」の関連から御社の財務を助けてくれるツールとなります。

なお、資産性に関しては、M&A及び企業価値算定の過程で売掛金の回収可能性の調査があると思います。

なので、予め年齢表を作っておくと買収監査時の印象が良いですね。

回収できない債権は損金に落とそう

売掛金の年齢表がわかったところで、一部の売掛金はもう何年も回収ができないで滞留しているものもあるかもしれません。

その場合、売掛金の貸倒損失を計上して、税務上損金に算入できる場合があり、法人税を下げる余地が出てきます。

貸倒損失とは、売掛金や貸付金などの金銭債権が回収できなくなった際に、債権者がその損失金額を計上するための勘定科目です。

この貸倒損失は会計上特別損失や営業外費用などで計上されますが、税務上は損金算入できるのが3パターンに限定されています。

法律上の貸し倒れ

債権の全部または一部が法律上消滅する場合を言います。

法律上債権が消滅しているので、法人が損金経理しているか否かを問わず、損金算入されます。

要するに、会計上は貸倒損失として計上していなくても、法人税申告書上で所得を減少させることができます。

この法律上の貸し倒れには、更生計画認可の決定、再生計画認可の決定、特例清算に係る協定の認可の決定などによって債権切り捨てがあった場合や、債権者集会の協議決定などで合理的な基準に基づく債権切り捨てがあった場合が該当します。

また、債務者の債務超過の状態が相当期間継続していて、弁済を受けることができないので、債務者に書面(債権者が内容証明郵便等で送付した債権放棄の通知など)で債務免除をした場合もこのケースに当たります。

事実上の貸し倒れ

債務者の支払い能力(資産状況)からみて、回収不能であることが明らかになった場合を言います。

この事実上の貸し倒れは恣意性が入りやすいので、税務当局と見解の違いが発生しやすいポイントです。

本当に「債権が全額回収不能であるかの立証責任はこちらにある」ので、なかなかこの事実上の貸し倒れで税務上の貸し倒れ損失を計上することは骨が折れる作業です。

そこで、実務上は上記の債務放棄の通知を行うことで債務免除を行い、貸倒損失を計上するケースもあります。

形式上の貸し倒れ

売掛債権について、取引停止後一定期間(1年以上)弁済がないため、または回収費用が債権の額を超えるため、貸倒とするケースです。

このケースは上記2つの貸し倒れよりも頻度は多いのでは無いでしょうか。

この形式上の貸し倒れに該当する場合は、売掛債権から備忘価額(1円)を控除した残額を貸し倒れとして損金経理をした時に税務上の貸倒損失として認められます。

注意点としては、この形式上の貸し倒れは売掛債権のみなので、貸付金債権は含まないということですね。

また、備忘価額(1円)を残しておくのを忘れないようにしましょう。万が一売掛債権の全額を費用としてしまった場合は、税務上全額が否認されて税金が増えますので、要注意です。

なお、貸倒損失の計上時期にも注意が必要です。

というのも、貸倒損失の計上時期は決まっており、タイミングを逃すと税務上否認される恐れがあるためです。

類型貸倒処理の状況計上時期
法律上の貸倒れ債権が切り捨てられた時債権切り捨てが決定された事業年度
事実上の貸倒れ債権の全額が回収できないと明らかになった時回収できないことが明らかになった事業年度
形式上の貸倒れ取引停止後1年以上弁済が無い時
債権金額<回収コストの時
取引の停止後1年以上経過した日以降の事業年度

貸倒損失のあるべき計上時期を上記の表にまとめましたので、参考にしてください。