会計士の藤井です。
前回の記事で、事業承継前後の資産運用について概要をまとめてみました。
不動産とともに事業承継で有効となってくるのが「保険」です。
当記事では、事業承継前後における「保険」の使い方について解説していきたいと思います。
事業承継前後の資産運用について悩んでいる
保険によって相続税が削減できると聞いたことがある
本日はこのような疑問にお答えします。
事業承継に保険が効く理由
事業承継において保険を活用すべき理由は主に2つあります。
それが「節税」と「支払資金確保」という観点です。
保険を使って相続税を節税する
第一に保険をうまく使うと「相続税」の節税が期待されます。
まず相続税の話ですが、生命保険金の非課税枠というものがあり、相続税の計算上「法定相続人×500万円」まで非課税にすることができます。
例えば、法定相続人が4人いた場合、被相続人(先代経営者)の死亡によって相続人(後継者)が取得した生命保険金のうち、2,000万円まで非課税となります。
仮に生命保険金が2,500万円だった場合、相続財産として加算されるのは500万円だけということになります。
事業承継前後で発生する大掛かりな支出に備える
また、保険は納税資金や自社株の買取資金として大いに活用することができます。
というのも、相続税の最高税率は55%であり、相続財産が億単位にわたると納税額もかなり多くなってしまうからですね。
また、自社株の計算上、引き継ぐ会社の利益や純資産額が多ければ多いほど株価が上がってしまいます。
そうなると引き継ぐ後継者としても、自社株の買取には多額の資金が必要となってきます。
この点、先代経営者が生命保険などの保険金受取人を会社か後継者としておくことで、相続税や自社株買取資金を捻出することができるようになります。
なお、保険は近年の改正で節税効果が薄れましたが、一部の法人保険の掛け金を費用とすることができますので、利益を圧縮して自社株の株価を下げることもできます。
どのような保険が望ましいか
それでは、事業承継を想定した場合にどのような保険に加入することが望ましいのでしょうか。
個人契約の生命保険
先代経営者が個人契約で生命保険に加入するパターンです。
保険金の受取人を後継者にしておけば、先代経営者に万一のことがあったとしても後継者に保険金が支払われます。
そうすることで、後継者が相続税の納税資金を捻出することができます。
また、上記で説明した生命保険の非課税枠が使えますので、法定相続人の数だけ相続税の節税にもなります。
なお、時々あるケースとして、後継者以外の他の相続人が「遺留分の侵害請求」を行うことがあります。
この遺留分は、法定相続人には遺言によっても取り上げることのできない最低限の遺産に対する取り分が規定されており、相続法の改正により、遺留分権利者はこの侵害額を請求することができるようになりました。
そこで、後継者が相続した株式に関して、他の相続人が遺留分を主張した際は遺留分侵害額を支払わなければなりませんが、その場合であっても受け取った生命保険金を利用して代償金を支払うことができます。
保険契約時の注意点
このように保険は事業承継において便利なものですが、注意点もあります。
保険金の支払によって会社のキャッシュフローを圧迫してしまうということです。
前述した通り、一部の保険金は利益を圧縮する効果がありますが、その分だけお金も出ていくので、将来キャッシュフローの試算は必要になるでしょう。
このキャッシュフローの圧迫に関連して、資金不足によって保険を解約しなければ亡くなったときは保険の種類によって解約返戻金がもらえますが、早期に解約してしまうと解約返戻金の金額が元本割れしてしまうことになります。
そういった意味で、事業承継対策として保険を使うのであれば、現預金に余裕がある状況で使うこと、そして、一定期間は必ず保険を継続することが必要になってきます。