会計士の藤井です。
事業承継の磨き上げにおいては、前に解説した不動産の整理と同じような観点で固定資産や設備も注意点がいくつかあります。
当記事では、貸付金や設備について事業承継前にやっておくことについて、思うところを書いていきます。
バランスシートに大量の貸付金が計上されている
事業承継前に大型の設備投資をしようか迷っている
本日はこのような疑問にお答えしていきます。
貸付金は処理が必須
中小企業のバランスシートに計上されている貸付金は、主に「友人(やその会社)に対する貸付金」か「経営者自身に対する貸付金」のケースが多いと思います。
友人等への貸付金は、まず正式に金銭消費貸借契約書を結んでいるか確認しておきましょう。
この契約書がないと、そもそもその貸付金はなんだったのかと追求を受けますので、まずは貸付及び後に返済してもらえるという事実が書面で証明できることが必要です。
その上で、事業承継の準備段階においては、実際に回収ができるのかどうか吟味する必要があります。
一方、経営者への役員貸付金は事業承継かどうかにかかわらず、早めに解消しておいた方が良いです。
というのも、役員貸付金は外部から「会社と個人の公私混同の象徴」と映るためです。
事実、役員貸付金があると融資を受ける時にも障害が出ることが大半です。
そのため、早めに役員貸付金は解消しておいた方が良いのですが、難しい場合は事業承継のクロージング時に回収して会社にお金を返すか、あるいは役員退職金の一部として処理することになります。
いずれにせよ、中小企業における貸付金はその回収可能性が全般的に低いと捉えられており、買収監査時に減額されるリスクが高い科目です。
事業承継を検討する際には貸付金はなるべく回収して現金化しておくことが望ましいといえます。
事業承継前に大型の設備投資は控える
経営者たるもの、業績を伸ばすために設備投資をしたいものです。
しかしながら、こと事業承継M&Aを考えた場合は、近々の大型設備投資は避けておくことをお勧めします。
というのも、設備投資をすることで曲がりなりにも現預金が出ていってしまいますし、買い手がその設備投資を評価するかどうかは分からないからです。
買い手の目線としては、その設備投資を回収するための期間が長いのではないかと疑念を持つ場合があります。
例えば、投資ファンドの場合はファンドの償還期限が決まっているので、償還期限内(5-7年程度)に企業価値を向上させることになります。
また、買い手が事業会社であったとしても、引き継ぎ後は投資した額に見合うだけの業績を伸ばしていく必要があります。
この点、設備投資は基本的に10年以上長い年月をかけて投資を回収していくものなので、買い手の時間軸と合わない可能性があります。
そのため、事業承継前に多額の設備投資をした場合その金額は固定資産に計上されますが、買い手の買収監査において投資の価値がないとして、当該固定資産を減額される可能性があります。
同時に売却額も減額される恐れがあり、事業承継前の設備投資は慎重になるべきと考えます。