会計士の藤井です。
前回の記事で法務の磨き上げについて解説しましたが、本日法務に関連する要素として人事労務の磨き上げについて解説します。
法務と比べて地味な印象のある労務ですが、特にM&A型の事業承継においては問題となることが多く、人事労務の磨き上げは承継後の事業の成否を決めることになります。
現在の社長がワンマン経営をしている
実は残業代を支払っていないので戦々恐々としている
本日はこのような疑問にお答えします。
経営者に関する磨き上げ
人事労務の磨き上げの中で最も重要なものが役員に関する見える化・磨き上げです。というのも、事業承継の主役は社長を含む経営者だからです。
そして、事業承継は現経営者が後継者に経営のバトンタッチをするものである以上、現経営者は事業承継後どのように会社に関与していくか決めなければなりません。
具体的には、バトンタッチした後に現経営者がどのくらい経営に口出しするか、また、現経営者が関与した場合は身分や報酬などの処遇をどうするかが焦点となります。
現経営者が会長や顧問に就任して引き続き後継者に対してアドバイスを施すケースが多いですが、潔く経営者の第一線から退いてほとんど会社にノータッチという方もまれにいらっしゃいます。
そのため、事業承継の準備段階で、現経営者がどのくらい関与するかを決定しておきましょう。
また、関連して役員退職金に関する規程も整備しておく必要があります。
事業承継においては、現経営者に対する慰労の観点や株価対策、税金対策のために役員退職金を支払うケースが多いです。
役員退職金は規程に従って支払われるべきなので、現経営者の処遇と併せて整備しておくことが望ましいです。
従業員に関する磨き上げ
従業員に関する磨き上げも役員と同じく論点になります。
一番重要なのは、事業承継後に従業員の雇用が維持されるのか、人員配置はどうなるのかです。
特にM&A型の事業承継の場合、買い手の経営方針が反映されることが多く、既存の従業員の処遇は常に論点になります。
交渉の結果、既存従業員の雇用維持を図れる場合もあれば、従業員の削減を強いられるケースもあります。
この点は非常にセンシティブですし、従業員あってのビジネスなので、事業承継の準備においては従業員の雇用と給与水準においては必ず計画を練っておくようにしましょう。
また、関連して、M&Aの買収監査においては従業員に対する未払給与・賞与が簿外債務として認識される可能性があります。
この未払いがあればあるほど売却額に悪い影響が及ぶことになるので、事業承継の準備時に当該給与等の金額を算定しておくことがまずもって重要になります。
労務規則に関する磨き上げ
ここまで役員と従業員の磨き上げについて解説していきましたが、最後に労務規則面からも磨き上げが必要になるケースがあります。
近年では中小企業においても労務に関するコンプライアンスの重要性が高まっており、後々に未払い残業代の請求をされるなどのトラブルも増えています。
そのようなトラブルを防ぐためには、まずもって労務に関する規則の整備をしておき、会社側と従業員側に理解の齟齬がないようにするのがよいでしょう。
具体的には、就業規則や給与等の支給に関する諸規程を整備しておくことが考えられます。
また、社会保険への加入状況や所得税・住民税の源泉徴収状況も可視化しておくと事業承継時に役立ちます。