会計士の藤井です。

弊社ではスタートアップ企業から資金調達の相談を受けることも多いです。

その場合に検討の俎上に乗るのがいわゆる「資本性ローン」というものです。

資本性ローンは返済期間が比較的長いことに加えて、銀行の査定上負債ではなく資本とみなされるため、バランスシートが改善するというメリットがあります。

しかしながら、この資本性ローンはそもそも対象となる企業が少ないことや期限が来ると一括返済を迫られることなど、一癖ある融資メニューです。

使える企業が限られているので資金調達の専門家としてお勧めしませんが、それでもよく相談を受けるので、本日は資本性ローンの特徴と使い所について思うところを書いていきます。

これ以上負債と増やしたくない
返済期間が柔軟に設計されたローンを使いたい

本日はこのような疑問にお答えしていきます。

資本性ローンの特徴

資本性ローンとは一言で言うと「出資に近い銀行融資」です。

何が出資に近いかというと、銀行のスコアリング上負債ではなく資本としてみなされることや、出資と同じく無担保・無保証人で資金調達ができるからですね。

また、通常の銀行融資のように期中の元本返済が必要ない(期限一括返済)ことや、利益が出ていないうちは利率が安く据え置かれるというのもメリットです。

資本性ローンの使い方

資本性ローンは一癖ある融資メニューです。
正直なところ使う企業を選びますが、この融資メニューにハマる企業はそれなりの恩恵を受けることでしょう。

株式が希薄化しない

エクイティファイナンスを行うスタートアップではこの株式が希薄化しないことが最大のメリットと言えるでしょう。

スタートアップでは通常、投資家に対して自社株の第三者割当を行うことで資金調達を行うことになります。

その際に外部投資家に株式を放出するため、内部の経営陣が持つ株式の持分割合がどんどん少なくなっていきます。

この株式希薄化の弊害としては、会社の経営権が徐々に少なくなっていくということです。

例えば、経営陣の持分割合が66.6%を下回れば、会社にとって重要な意思決定を否決されてしまう拒否権を与えてしまうことになりかねません。

また、より重要な論点として、当該持分割合が50%(過半数)を下回れば、取締役の身分を解任される恐れもありますし、日々の意思決定を自分たちで決めれることも少なくなってくるでしょう。

株式会社を経営している限り、株式の持分割合は最も重要な権利の一つです。

そういった意味で、株式を放出しなくて良い資本性ローンは、資本政策上重要な施策となるでしょう。

融資期間中の返済が必要ない

資本性ローンのもう一つの特徴として、融資期間中に元本の返済が不必要であるということが挙げられます。

つまり、資本性ローンを借りている間は元本にかかる利息だけ支払えば良いということですね。

これは、資金繰り上非常に重要な観点です。
というのも、通常の融資であれば、基本的に融資直後から元本に返済が発生するからです(据置期間という制度もある)。

特にスタートアップであれば、資金調達をしてから成果が出るまで時間がかかることが多いので、月々の返済負担が利息だけとなるのは非常に助かることでしょう。

なお、公庫の資本性ローンの返済期日は最短で5年1ヶ月後となり「期限が来たら一括で返済する必要がある」ことを忘れないようにしましょう。

銀行のスコアリング上資本とみなされる

また、資本性ローンはその名の通り「出資に近い融資」なので、銀行のスコアリング上資本とみなされることもメリットです。

というのも、普通の融資であれば会計上も銀行審査上も「負債」とされますので、融資が多ければ多いほど財務健全性の観点から評価が下がることになります。

特にすでに多くの銀行融資を受けている企業が追加で融資を受けるのは徐々に難しくなってくるのが現状です。

この点、資本性ローンは銀行審査上資本なので、負債比率が上がることなく融資を受けることができます。

資本性ローンの注意点

このように企業によっては使い勝手の良い資本性ローンですが、注意点もいくつかあります。

利益が出ると利率が跳ね上がる

公庫の資本性ローンは利益が赤字の時は低い利率に据え置かれますが、一度黒字転換すると利率が跳ね上がるので注意が必要です。

具体的には、売上高減価償却前経常利益率が0%未満、つまり経常赤字の時は利率が1.05%で比較的低い利率に抑えられています。

一方、経常黒字となると3.20-3.65%、売上高減価償却前経常利益率が5%を超えると5.30-6.20%まで上がります。

スタートアップ企業は基本的にJカーブを掘り続けるので、この経常利益率が5%を超えるのはそこまであり得ないと思います。

しかし、黒字化ならスタートアップでもあり得ますし、何よりこのローンは期限前の返済はできないので、利益が出たからといって返済ができないのがネックです。

そういった意味でも、この資本性ローンは「創業当初に融資を受けておく」のが1番おすすめです。

期限一括返済

資本性ローンのもう一つの注意点は「期限での一括返済」が必要なことです。

というのも、この資本性ローンは返済期間中での元本返済がない代わりに、期限が来ると一括で返済しなければなりません。

まぁこれはメリットとデメリットの裏返しといえますが、数年後にいきなり数千万円を一括で返済するとなると、事前に資金繰り策を練っておく必要がありますね。

資本性ローンの対象企業

ここまで資本性ローンの特徴についてお伝えしてきましたが、実はこのパートが1番大事かもしれません。

というのも、この資本性ローンは使える企業が限られているからです。

公庫のHPにはさらっと書かれていますが、このような一文があります。

(注1)技術・ノウハウ等に新規性がみられる方(※)」、「独立行政法人中小企業基盤整備機構が出資する投資事業有限責任組合から出資を受けている方」、「事業に新規性及び成長性がみられる方(※)」のいずれかにかかる資金に限ります。

(注3)「新商品・新役務の事業化に向けた研究・開発、試作販売を実施するため、商品の生産や役務の提供に6ヵ月以上を要し、かつ3事業年度以内に収支の黒字化が見込める方」で、「新たに事業を始める方や事業開始後おおむね7年以内の方」にかかる資金に限ります。

日本政策金融公庫「挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)」

また、新型コロナ対策資本性劣後ローンの場合は以下となっています。

1)J-Startupプログラムに選定された企業(注1)又は中小企業基盤整備機構が出資する投資ファンド(注2)から出資を受けた方

2)中小企業再生支援協議会の支援を受けて事業の再生を図る方(注3)

3)原則として認定経営革新等支援機関(認定支援機関)(注4)の指導を受けて事業計画を策定した方であって、かつ民間金融機関等との協調支援(注5)により事業の発展又は継続を図る方

日本政策金融公庫「新型コロナ対策資本性劣後ローン」

公庫の担当者にヒアリングしたところ、通常の資本性ローンの対象は「特許を持っているとか大学発の技術を持っているとか、研究開発を行っている企業がメイン」とのことでした。

また、新型コロナ資本性ローンに関しては、1)そもそもJ-Startupか然るべき投資ファンドから投資を受けていないと対象となりませんし、3)の場合は認定支援期間の事業計画書作成、かつ、民間の金融機関の融資が前提となるため、ハードルが上がります。

この理由として、新型コロナ資本性ローンの趣旨が民間金融機関から融資を受けれるように公庫が自己資本比率の上がる融資を推進しているためです。

そういった意味で、この資本性ローンの対象になる企業は意外と少ないです。

さらに、資本性ローンは申し込みから着金まで2-3ヶ月かかることが多く、他の融資と比較して時間がかかります。

このように資本性ローンは対象企業が少ない上に、クセのある融資なので、申し込みに当たっては必ず専門家か公庫の担当者に確認をしたほうが良いです。