会計士の藤井です。
事業承継は「株式の承継」と言われるほど、株式をどのようにバトンタッチしていくかが重要な課題となります。
というのも、株式は意思決定権そのものであるため、役職だけ後継者に渡しても片手落ちだからですね。
しかし、この株式の承継はいろんな意味で注意を払うことが多く、その過程を誤ると、後継者に多額の税金負担がのしかかることになりかねません。
そこで、本日は、先代経営者から後継者に対してどのように株式を承継していくかについて考察していきます。
後継者に自社株を渡したいが、多額の税金がかかると聞いた
どのようにして自社株を承継すれば良いのか分からない
本日はこのような疑問にお答えしていきます。
資産の移動には税金がかかる
株式の承継方法について考察していく前に、大前提として「資産の移動には税金がかかる」ことをまずは抑えておきましょう。
事業承継の文脈においては、先代経営者が存命のうちに自社株を後継者に渡してしまったら「贈与税」がかかります。
一方で、先代経営者の死別をきっかけにして親族の後継者に自社株が遺贈された場合は「相続税」がかかります。
このように、日本では人から人に資産が移動した場合に税金がかかり、しかもその税率は非常に高いために、注意を要するのです。
そして、中小企業の自社株は流動性がありませんので、現金化することは非常に難しい一方で、納税は原則として現金で行わなければならない点が厄介です。
具体的な株式の承継方法
先代経営者から後継者への株式の承継は「贈与」「譲渡」「相続」と3パターンあり、以後これらのパターンを元に株式承継の方法をまとめていきます。
贈与
まずは、生前贈与です。
この方法は文字通り先代経営者が存命のうちに、保有している自社株を後継者に無償で移管させるやり方です。
後述する相続の場合は、相続イベントが発生しない限り株の移管ができませんが、贈与の場合は先代経営者の好きなタイミングで株式の移管を行うことができます。
具体的な贈与の方法ですが、いくつかの承認手続きを踏む必要があります。
というのも、非上場会社の大半は株式に譲渡制限がかかっているので、その譲渡に対して誰かの承認を得なければならないからですね。
承認相手は会社によって定めが異なりますが、多くは「株主総会」か「取締役会」か「代表取締役」の承認が必要だと思います。
この点については、登記簿謄本や定款を確認することが肝要です。
そして、実際に株式の贈与を行うためには先代経営者と後継者の間で「贈与契約書」を締結することが必要な他、先代経営者から会社に「株式譲渡承認請求書」や後継者から会社に「株式名義書換請求書」を発行することが必要になってきます。
なお、株式の贈与は一度にまとめて贈与することもあれば、毎年一定の株式を贈与する歴年贈与の方式を取ることも可能です。
歴年贈与の場合は、基礎控除額が110万円あるので、株式価値がそれ以上になると贈与税を払うことになるので要注意です。
譲渡
株式の譲渡については基本的に生前贈与と手続きが似通っています。
株式の譲渡に関しても贈与と同じく先代経営者など株式保有者が会社に譲渡請求を行うところから始まります。
会社において譲渡の承認を行った後「株式譲渡契約書」を締結します。
贈与は無償で譲るケースが多いですが(有償贈与もある)、譲渡は有償で譲ることが基本なので、譲渡時の条件を株式譲渡契約書で定めていきます。
・譲渡合意:どの会社のどの種類の株式を何株いくらで譲渡するか
・譲渡価格の支払:どのように譲渡金を支払うか
・株式譲渡の表明保証:売手が買手に対して、提示した会社の内容を保証するもの
・契約解除:譲渡契約が解除になる事由などを記載
通常はこのような項目を株式譲渡契約書に盛り込むことが多いです。
株式譲渡契約書と対価の支払が完了したら、すぐに株式の名義書換を行う必要があります。というのも、名義を書き換えないと、株が自分のものであると主張するのが難しくなるからですね。
そこで、売手と買手は会社に対して「株式名義書換請求書」を発行し、会社にて株主名簿の書換を行います。
相続
会社によっては、親族などの後継者に後を継がせたくて、相続で株式を承継させることを検討している方もいらっしゃるかもしれません。
その場合に最も重要なことは予め「遺言書」を作っておくことです。
というのも、予め遺言書を作っておくことで特定の相続人に株式を確実に集約させることができるためですね。
このケースにおいては遺言書がなかった場合を考えてみるとわかりやすいでしょう。
遺言書がない場合、先代経営者の相続財産は遺産分割協議が完了するまでの間、株式は「株主権を相続人で持ち合う」ことになります。これを「準共有」と言います。
ここでこの「準共有」は会社運営上、問題を孕んでいます。
というのも、「準共有」状態にある状態では、相続人のうち株主としての権利を行使する人を一人決めて、その権利者が代表して権利行使することになっています(会社法106条)。
しかし、この代表者がすんなり決まるとは限りません。
先代経営者が例えば長男を後継者にしたいと思っていても、遺産分割協議が順調に進むとは限りませんし、権利行使者が長男以外になる可能性だってあり得ます。
その場合、本来の後継者以外の人が会社の実権を握ることになり、会社経営上混乱をきたしてしまう恐れがあります。
これらのリスクを防ぐためにも、遺言書を書いておき、本当に後継者としたい親族に自社株を集約させるようにしましょう。
税金面はどうなっているか?
ここからは税金面から見た場合、「贈与」「譲渡」「相続」のどのパターンがお得なのか見ていくことにします。
結論から言うと、ケースバイケースでどれが最も税金が安くなるかは断言することができません。
「譲渡」は譲渡益に対して20.315%の税率で、「贈与」や「相続」の最高税率55%に比べて低いので、一般的に最も税金が安くケースが多いことでしょう。
しかしながら、贈与や相続には基礎控除というものがあります。
贈与は毎年110万円、相続は3,000万円+600万円×法定相続人の数だけ基礎控除があります。
そのため、これらの基礎控除をうまく活用して、早くから歴年贈与を行うとか、相続税の節税策を使うなどして、結果として譲渡よりも税金が安くなるケースもあり得ます。
ということで、実際のケースに照らして、3つのパターンで税務シミュレーションを行うことが重要となります。