会計士の藤井です。
政府系金融機関と言えば「日本政策金融公庫」が有名ですが、実はもう一つ政府系の銀行があることをご存知ない方もいらっしゃると思います。
それが「商工中金」です。
商工中金と日本政策金融公庫は同じ政府系金融機関でありながらも、似て非なる金融機関です。
そこで、本日は日本政策金融公庫との違いを念頭に置きながら、商工中金から融資を受ける方法について解説していきます。
最近公庫から融資を受けたので次は商工中金と取引したい
日本政策金融公庫と商工中金の違いについて知りたい
本日はこのような疑問にお答えしていきます。
商工中金の特徴
商工中金は日本政策金融公庫と同じ政府系金融機関でありながら、大きく違う点がいくつかあります。
今回は「銀行としての機能」「対象企業の規模」「融資審査のハードル」「海外展開」という観点から考察しました。
民間金融機関とほぼ同等の機能
まず、ここが日本政策金融公庫と決定的に違う点です。
公庫は貸付に特化しているのに対して、商工中金は預金機能もありますし、手形割引などの金融サービスも提供しています。
また、公庫との違いとして、商工中金は1年以内の短期融資も提供しています。
つまり、商工中金と民間金融機関はほぼ同等の機能を備えていて、民間金融機関と同じように使うことができるでしょう。
違いがあるとすれば、商工中金は構成員にならないと融資を受けられない点が挙げられます。
といっても構成員になるにはそんなに高いハードルはなく、会費を払えば基本的に構成員になれるので、心配する必要はありません。
また、政府系金融機関の顔を持つ商工中金は災害や疫病によって影響を受けた企業に対する優遇された融資メニューを早めに提供することが多いです。
今回のコロナショックで創設された「危機対応融資」はその最たるものですが、ここは日本政策金融公庫と足並みを揃えて中小企業の資金繰りを支援しています。
比較的規模の大きな中小企業と取引
商工中金は基本的に規模の大きな中小企業と取引しているケースが多く、創業直後の企業は日本政策金融公庫が使い勝手が良いと思います。
というのも、商工中金が取引する企業の規模としては「最低でも年商1億円、できれば3-5億円以上の中小企業」となります。
そのため、創業直後の企業は商工中金とあまり相性はよくないと言えます。
実際に私が担当者から直接話を伺ったこととしては、創業直後の会社は「3期決算を経ていることが望ましい」とのことです。
これは、商工中金のターゲットが「ある程度安定して売上を出せるようになった中小・中堅企業」にあることの証左でしょう。
そのため業歴が若い会社は、ある程度の決算期を経て順調に業績が上がってきたとき(ビジネスモデルが確立してきた時)に商工中金の門を叩くと良い結果が出やすいでしょう。
なお、業種に関していうと、昔からある業種の融資に強い印象です。
つまり、製造業や建設業、小売業などは商工中金としても顧客が多いとされ、ビジネスモデルや将来性を理解する能力に長けている一方、IT業などの新しい産業は融資担当者の理解が追いつかなかった印象です。
このような新しい産業の企業は、私の経験上ある程度規模の大きな地銀やメガバンクと相性が良いと考えています。
融資審査のハードル
融資審査のハードルも商工中金の方が厳しいと言われています。
というのも、商工中金や日本政策金融公庫ともに政府が出資している政府系金融機関ですが、出資比率が異なります。
ともに政府が出資をしていますが、日本政策金融公庫は政府が100%株主であり、純政府系金融機関と言える一方で、商工中金は文字通り半官半民といった感じです。
実際に、商工中金は運用資金の大半を預金などから自己調達しています。
そのため、商工中金の融資審査プロセスも民間の金融機関に近しい目線で行われることになります。
なお、商工中金は、日本政策金融公庫と違って、融資金額によっては信用保証協会の保証を求めることもあります。
これは「信用保証協会付き融資(通称マル保)」と言われ、民間金融機関では初回融資やリスクの高い中小企業に対して行われている融資です。
そう言った意味でかなり民間金融機関に近いといえます。
海外展開支援
海外展開支援に関しても、商工中金は積極的に支援しているようです。
というのも、公庫の場合はバンコクと上海に「駐在員事務所」を置いているのみですが、商工中金の場合はニューヨークに「支店」があることやアジアの多くの国に拠点を置いているのが特徴です。
商工中金は民間金融機関と同じく、貿易取引のサポートも可能で、海外に関する情報提供も行っています。
そういった意味では、商工中金の方が海外展開時の金融機関としては心強いということができるでしょう。
商工中金から融資を引き出す方法
商工中金の特徴を理解したところで、ここからは商工中金の攻略法についてこれまでの経験から思うところを書いていきます。
まず、商工中金においては公庫と違って資金調達金額がより多額になる傾向にあります。
これは商工中金が規模の大きな企業を相手にしているので、至極当然なことです。
そのため、より御社の事業内容や財務内容について詳細な説明が求められるということでもあります。
そこで、商工中金の融資を受けるに当たっては「事業計画書」や「財務計画書」など追加の資料を作成・提出することで、融資の可能性が上がってくることでしょう。
また、商工中金からは「商流図」の提出を求められることもあります。
この「商流図」は御社のビジネスの流れを図解したもので、融資担当者が御社のビジネスを一目で理解するのを助ける資料です。
我々の経験では、商工中金に対して御社の商流を事細かに説明することで、融資担当者が融資に前向きになってくれた事例もありました。
商工中金は歴史のある金融機関ですが、若い融資担当者ほどビジネス経験が少ないので、御社の事業の対する理解がどうしても不足してしまう場合があります。
事業が理解できない会社に対する融資はどうしても気後れしてしまうのが担当者の心理なので、御社の事業内容やその魅力を詳しく説明することも重要になってきます。
なお、これはどこの金融機関も似たり寄ったりですが「資金使途」はガチガチに固めていくことをお勧めします。
特に初回融資では、資金を何に使うのか?が厳格に評価される印象であり、お金が必要ないのに(資金使途が不明確なのに)お金を貸してください、といっても銀行側は取り合ってくれないためです。