会計士の藤井です。

次世代への事業承継を検討する際に、いつも論点となるのが「いつ事業承継を行うか」です。

会社が上手くいっている時はそこまで事業承継を考えなくてもよいように思えます。

一方で、経営が傾いて廃業寸前になってしまうと、誰も引き継いでくれないという事態にもなりかねません。

事業承継にはベストなタイミングがあります。
本日は、事業承継を検討し始めるタイミングに関して、事業面と年齢面のから考察を加えていきます。

いつから事業引継ぎの準備をすべきか悩んでいる
事業承継に対してどのくらいの時間がかかるか知りたい

本日はこのような疑問にお答えします。

事業面:この先に不安を感じた時

事業面に関しては一般的に、この先に不安を感じたときから事業承継を考え始めることになると思います。

特に「自分の力でこれ以上ビジネスを伸ばせないと思った時」こそが、事業承継を検討するベストなタイミングであると考えております。

なぜなら、そのタイミングこそが業績的にピークであることが多く、引継ぎ先が最も集まると期待されるからです。

そもそもM&Aの世界では、成長ステージ毎に経営者が交代するというのが当たり前に行われています。

というのも、経営者によって創業期(0→1)、急成長期(1→10)、拡大期(10→100)など得意分野と求められるスキルが異なるためです。

創業期に近づけば近づくほど起業家的な能力が求められ、組織が大きくなればマネジメント力が必要になります。

ということで、経営者の相性的にこれ以上の拡大が見えにくい場合や拡大したくない場合は事業承継を考え始める一つのきっかけになるでしょう。

また、属している業種の状況によっても事業承継を考えるタイミングが異なります。

今まさに伸びている業種に属していればもう少しタイミングを後ろ倒ししてもよいでしょうし、いわゆる斜陽産業に属していれば、売上が下がる前に承継を完了させるのも有力な方法です。

事業には山もあれば谷もあります。
山を登り切って、これ以上高い山を登る気力がない、あるいは上る意思がないという時が事業承継の一つのタイミングであると言えます。

年齢面:60歳くらいから意識

意思決定の難しさはありますが事業面では山の頂上で事業承継を検討し始めるのが最も良い結果になるということでした。

一方、年齢面で事業承継のタイミングをはかるということも考えられます。

というのも、健康寿命は以前に比べると伸びているものの、やはり高齢化による事業への影響は無視できない面があるからです。

この点、何歳から事業承継を意識すべきでしょうか。
経営者の体調にもよるので確たる答えはありませんが、「60代前半」を目途に事業承継を考え始めるというのはいかがでしょうか。

理由はいくつかありまして、一つは後継者との年齢差です。

60代前半くらいになると、おそらくご子息が30歳前後になっていると思います。

30代になると一通りビジネスやマネジメントというものを経験して、さらに大きなチャレンジがしたくなってくる頃合いです。

そのため、ご子息の方を会社に呼び戻すにはちょうど良い年齢ではないかと思うのです。

私の父は私が22歳の時に死去して事業は廃業してしまいましたが、10年後の32歳で承継するとするならば、体力・経験など勘案してかなり前向きに検討していたことでしょう。

また、これは自然の摂理なのですが、やはり60代になると体力の衰えを実感するところでしょう。

私の父も50代と60代では明らかに体力や馬力が違っていたように見えました。

事業承継は後継者の育成まで含めると数年にわたる一大イベントなので、体力の衰えを感じたら意識をしておくだけでもかなり違ってきます。

なお、事業承継後も事業自体の引継ぎに依然として関与していくことになりますし、会長や顧問として引き続き会社に関わっていくことも可能なので、いきなり会社との関係が断たれるわけではありません。

事業承継にかかる時間

事業承継にかかる時間についても少し触れておきたいと思います。

一般的に、内部承継であれば「3-10年」ほどの時間がかかると言われています。これは、後継者への経営者教育にかかる時間が大半です。

一方、M&Aなどの外部承継は6か月から引継ぎが可能になります。

マッチングとM&Aの実行だけなら確かに3か月ほどの短期間で事業承継をできなくはないです

しかし、それでは引き継ぐ側も承継後が大変であるとともに、準備不足でM&Aに臨むと買い手から買い叩かれる恐れがあるのでお勧めはしません。

我々のお勧めとしては、事業承継準備として「経営の見える化と磨き上げ」をある程度時間をかけて行い、万全を期して引継ぎを行うのが引継ぎ元や引継ぎ先のとって最も良い結果となると考えております。

事業承継の準備は早ければ早いほど承継の選択肢が増えるのでお勧めです。

一方、極端な例として、廃業寸前までに追い込まれてから事業承継しようと思っても、引き継ぐ人や引継ぎ先が容易に見つからないため、そのまま廃業するリスクが非常に高まるのが現実です。

やはり早めに準備するのが一番良いという結論に変わりないでしょう。